金利について学ぶ ~金利上昇への備え~

日本では長年大規模な金融緩和が続き超低金利が続いてきました。しかし、2022年12月に日本銀行(以下日銀)が長期金利の変動幅を「±0.25%」程度から「±0.50%」程度に拡大したことで、今後金利が上昇するのではないかという懸念が広がっています。

ここでは、住宅ローン金利と日銀の金融政策との関係から金利変動の仕組みを学び、金利が上昇してもあわてない備えについて考えてみましょう。

長期金利と固定金利の関係
長期金利とは、資金の貸し借りの期間が1年超の金利のことです。住宅ローンの固定金利は長期金利の中の10年物の国債利回りに影響を受けます。一方で変動金利は期間が1年未満の短期金利に連動します。

日銀は短期金利を操作して、長期金利に影響を及ぼすという政策をとってきました。長期金利は短期金利に比べて期間が長い分コントロールが難しく、景気が良くなれば資金需要が増して金利が上がり、景気が悪くなれば下がるからです。長期金利は実体経済の状況を反映しやすく、短期金利より先に上がったり下がったりする傾向があります。

ところが2016年以降、景気の安定に効果があるとして、長期金利についても日銀が大規模な国債買い入れ等行うことで金利を操作する「長短金利操作(イールドカーブコントロール)」が導入されました。さらに、日銀は2021年3月からは、10年物の国債利回りを「±0.25%」程度に抑えることを明確化しました。

しかし、アメリカはじめ諸外国のインフレや政策金利の引き上げなどに伴い、日本の長期金利に対する利上げ圧力も強くなり、2022年12月には変動幅を「±0.5%」程度に拡大しました。金利変動幅の拡大により、10年国債の金利は急激に上昇し、全期間固定金利の【フラット35】をはじめ、民間の住宅ローン固定金利も上昇傾向にあります。

10年国債の金利推移表

変動金利は今後上昇する?
日銀が短期金利を「±0.1%」程度にコントロールしていることや、各金融機関の金利競争等から、変動金利は今のところ上昇していません。

では、短期金利は今後も上昇しないのでしょうか。

日銀は物価上昇率が安定的に前年比2%となるまでは現在の金融緩和政策を続けることを明言しています。2022年12月時点の物価上昇率は前年比4%を超えています。しかし、現状は原料高や円安など景気回復以外の要因で物価が上昇しているため、日銀は、賃金上昇を伴う「安定的なインフレ率2%」を達成するまでは金融緩和を続ける方針です。

ただし、今後も物価上昇や円安が続けば金融政策を変えざるを得ないケースも考えられます。金融政策が変われば今回の長期金利のように急激な金利上昇にもつながりかねません。ところが、変動金利はその仕組み上、金利上昇に気づきにくい面があります。

多くの金融機関の場合、変動金利の金利見直しは半年ごとで、返済額は金利が上昇しても5年間変わりません。さらに、5年間で金利が大幅に上昇しても、次の5年間の返済額は125%以内に抑えられます。

変動金利5つの仕組み図

こうしたルールは、急激な返済額の上昇を抑えるための仕組みですが、元金の返済が後ろ倒しになり、結果的に利息の支払い額が増えて、完済までの総返済額も増えてしまいます。急激な金利上昇があれば、毎月の返済額で利息分さえも支払えず、「未払い利息」が発生する可能性もあります。

変動金利で借りる人は、金利上昇時のリスクを自分がとることを十分に認識し、金利上昇への備えを考えておくことが重要です。

金利上昇への備え方
では、具体的に金利上昇に備えるにはどうすればよいのでしょう。
これから住宅ローンを借りる人で今後金利が上昇する可能性があると考えるなら、現在の変動金利をベースに資金計画を立ててはいけません。少なくとも現在の全期間固定金利+αの金利で返せる金額から逆算して借入額を考えてみましょう。そのうえで、子供の教育費が大きくかかる時期や老後を余裕をもって乗り越えられる資金計画となっているのか、長期的な視点で検討しておく必要があります。

また、教育費や老後資金をいくら貯めればよいのか不安だ、金利が大きく上昇したらどうしよう、賃金の上昇は見込めるのだろうかなど、不安に思うことがあれば、当初の返済額が多少高くても、全期間固定金利や一定期間固定金利で安心をとることを考えてみましょう。金利選択はご自身の資金余力やライフプランから考えることが重要です。

住宅ローンは早く返す競争でも、お得を追求するものでもなく、家族が住宅購入以外の希望を実現させながら完済することが目標です。金利変動の仕組みを知ったうえで、一生安心して返す固定金利か、金利上昇時のリスクをとっても当初お得を選ぶ変動金利か、この機会に考えてみてはいかがでしょうか。

ちなみに、すでに変動金利で借りている人は、金利上昇による返済額増額への対応策は主に3つです。家計余力でそのまま払い続ける、毎月返済額を同程度にするための繰り上げ返済をする、全期間固定金利に借り換えるといった方法です。しかし、繰り上げ返済の資金は時間をかけて準備しなくてはなりません。また、借り換えについても固定金利は変動金利に先行して上昇することから、金利上昇に気づいた時にはすでに固定金利が大きく上昇している可能性があり、難しい判断となる点には注意が必要です。

※掲載内容は2023年3月時点のものです。

執筆者
住まいのお金相談室代表 ファイナンシャル・プランナー
有田 美津子
(CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士)